いやいや、そんなことはない

「いやいや、そんなことはない。掘り出しものだよ。ありがたいありがたい。これで今度の分は間に合うからねえ。なにしろこのごろは納期がやかましいから、もくねじ一函が足りなくても大さわぎなんだ」
 若い男は、うれしそうに目を輝かして、ボール函の蓋をしめた。ぼくたちの部屋は再び暗くなった。
「それみろ。やっぱりありがたいだろうが。お前からよくもくねじさんにお礼をいっときな。売れ残りだなどというんじゃねえぞ」函の外には、倉庫係のおじさんが機嫌をとり直して、ほがらかな声を出す。
「じゃ貰っていくよ。伝票はさっきそこに置いたよ」
「あいよ。ここにある」
 それからぼくたちは、若い男の手に鷲掴みにされ、そしてどこともなく連れていかれた。
 今から思えば、まだこのときのぼくは希望に燃えて気持は至極明るかった。仲間同士、これからどんなところへいって、どんな機械の部分品となって働くのであろうかなどと、われわれの洋々たる前途について、さかんに談じ合ったものである。
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