硝子窓から仕事娘を覗かしている仕立屋

硝子窓から仕事娘を覗かしている仕立屋。中産階級の取り済ました塀。こんなものが無意味に新吉の歩行の左右を過ぎて行った。新吉は子供の時分奮い立った東京の祭のことを思い出した。店のあきないを仕舞って緋の毛氈を敷き詰め、そこに町の年寄連が集って羽織袴で冗談を言いながら将棊をさしている。やがて聞えて来る太鼓の音と神輿を担ぐ若い衆の挙げるかけ声。小さい新吉は堪らなくなって新しい白足袋のまゝで表の道路へ飛び下りるのだった。縮緬の揃いの浴衣の八ツ口から陽にむき出された小さい肘に麻だすきへ釣り下げたおもちゃの鈴が当って鳴った。
 気分というものは不思議に遇合することがあるものだ。ベッシェール夫人もこどもの時代のことを想い出した。
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