石炭庫の中

 曾呂利本馬は、足がわるく、おまけに、ニーナ嬢につきあたられて、後頭部をいやというほどうったので、ふらふらの病人であるはずのところ、彼が、足もともしっかり、すっくと立ち上っていたのを見て、房枝は、たいへんふしぎに思ったのである。
「曾呂利さん。もうおなおりになったの」
「いや、あいかわらず痛むのですけれど、今、団長が見つかったときいたものだから、おどろいて、思わず立ち上がったんですよ」と、彼は、いいわけしながら苦笑した。
「いやな曾呂利さんね。そんならんぼうなことをなさると、いつまでも丈夫になれないわ。ねえ、ドクトルさん」
 ドクトルは、看護婦相手に、船員赤石の容体を見守っていたが、
「そうですよ。若い人は、どうもらんぼうをするので、いかんですよ。いくら丈夫でも、人間の体力には、かぎりがある。それをふみこすと、体をこわしてしまう。曾呂利さん、房枝さんのいうのが、ほんとうだ」

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