彼は三十前後の蒼黒い男で
「おい、待ってくれ。落とし物はよっぽど重そうだな。おれに見せてくれ」
「見せてくれ……」と、男は眼をひからせて半七を睨んだ。「ひとの懐中物をあらためてどうするのだ。おめえは巾着切りか、追剥ぎか」
「追剥ぎはそっちかも知れねえ」と、半七は笑った。「まあ、見せろよ」
「てめえたちに見せるいわれはねえ」と、男は半七の手を振り切って、財布を自分のふところへ捻じ込んだ。
「ぬすびとの昼寝ということもある。そんなに重そうな財布をかかえながら、往来に寝込んでいるから調べるのだ。おれが調べるのじゃあねえ。この十手が調べるのだ」
半七はふところから十手を出した。
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