『ヒルミ夫人の冷蔵鞄』

「――あれですよ『ヒルミ夫人の冷蔵鞄』というのは――」
「え、ヒルミ夫人の冷蔵鞄?」
 僕はハッとわれにかえった。いつの間にか入ってきた見知らぬ話相手の声に――
「おお君は一体誰だい」
 僕はうしろにふりかえって、そこに立っている若い男を見つめた。
「私かネ、わたしはこの街にくっついている煤みたいな男でさあ」
 といって彼は歯のない齦を見せて笑った。
「しかしヒルミ夫人の冷蔵鞄のことについては、この街中で誰よりもよく知っているこの私でさあ。香りの高いコーヒー一杯と、スイス製のチーズをつけたトーストと引換えに、私はあのヒルミ夫人の冷蔵鞄のなかに何が入っているかを話してあげてもいいんですがネ」
 そういって、若い男はブルブル慄える指を、紫色の下唇にもっていった。
名古屋熱田区の指圧マッサージ|てもみ処ひまわり 私が絵を描き続けていて思う事
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