万吉郎は、この六ヶ敷い

 万吉郎は、この六ヶ敷い問題の解答をひねりだすために、気をかえて、昔彼が好んで徘徊していた大川端へブラリと出かけた。
 どす黒い河の水が、バチャンバチャンと石垣を洗っていた。発動機船が、泥をつんだ大きな曳船を三つもあとにくっつけて、ゴトゴトと紫の煙を吐きながら川下へ下っていった。鴎が五、六羽、風にふきながされるようにして細長い嘴をカツカツと叩いていた。河口の方からは、時折なまぐさい潮の匂いが漂ってくる。
 万吉郎は宿題をゆるゆると考えるために、人気のない川添いの砂利置場に腰を下ろした。
 なにかこう素晴らしい思いつきというものはないか?
 口実をつくって、旅に出ようかとも考えた。だが永くてもせいぜい二、三ヶ月のことであった。一生の永きに比べると、そんな短い期間の解放がなにになろう。
 発狂したことにして、病院に入ったことにしてはどうであろう。しかし病院をしらべられるとすぐお尻がわれる。

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