棚から太い懐中電灯を取って

 夫は棚から太い懐中電灯を取って、スタスタと出ていった。あたしは十歩ほど離れて、後に随った。夫の手術着の肩のあたりは、醜く角張って、なんとも云えないうそ寒い後姿だった。歩むたびに、ヒョコンヒョコンと、なにかに引懸かるような足つきが、まるで人造人間の歩いているところと変らない。
 あたしは夫の醜躯を、背後からドンと突き飛ばしたい衝動にさえ駆られた。そのときの異様な感じは、それから後、しばしばあたしの胸に蘇ってきて、そのたびに気持が悪くなった。だが何故それが気持を悪くさせるのかについて、そのときはまだハッキリ知らなかったのである。後になって、その謎が一瞬間に解けたとき、あたしは言語に絶する驚愕と悲嘆とに暮れなければならなかった。訳はおいおい判ってくるだろうから、此処には云わない。
 森閑とした裏庭に下りると、夫は懐中電灯をパッと点じた。その光りが、庭石や生えのびた草叢を白く照して、まるで風景写真の陰画を透かしてみたときのようだった。あたしたちは無言のまま、雑草を掻き分けて進んだ。

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