秘密の絵像を描いているあいだは

 秘密の絵像を描いているあいだは、父からも厳しく云い渡されていたのであろう。おげんも余りうるさく寄り付いて来なかったが、それがいよいよ出来あがると、彼女は先夜の約束通りにあなたのお弟子にしてくれと強請んで来た。澹山はよんどころなしに二つ三つの手本をかいてやると、彼女は熱心に稽古をつづけて、あまり器用らしくもない彼女が案外めきめきと上達するのに、師匠も少しく驚かされた。しかしその熱心の裏には何かの意味が忍んでいるらしくも想像されるので、澹山はなんだかいじらしいような暗い心持にもなった。
 江戸の旅絵師は奥州の春をむかえて、今年ももう二月になったが、ここらの雪はまだちっとも解けないで、うす暗い寒い日が毎日つづいた。今夜も細かい雪がさらさらと灰のように降っていた。
「お寒うござります」
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