すっかりお祭りね

――すっかりお祭りね。」

 老美人は子供のようなはしゃぎかたさえ見せて、喧騒の渦の音が不安な魅力で人々を吸い付けている市の中心の方角へ、しきりに新吉を促し立てた。
 晴れた日と鮮かな三色旗と腕に抱えている老美人との刺戟に慣れて来ると新吉は少し倦怠を感じ出した。すると歩調を合せて歩いている自分等二人連れのゆるい靴音までが平凡に堪えないものになって新吉の耳に響いた。

――しつこい婆につかまって今日一日無駄歩きしちまうのだ。」

 弾力を失っている新吉の心にもこの憤りが頭を擡げた。キャフェの興奮が消えて来た新吉の青ざめた眼に稲妻形に曲るいくつもの横町が映った。糸の切れた緋威しの鎧が聖アウガスチンの龕に寄りかゝっている古道具屋。水を流して戸を締めている小さい市場。
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