へえ、若い師匠のところへは

「へえ、若い師匠のところへはちっとばかり稽古に行ったもんですから」と、弥三郎は丁寧に答えた。彼はきのうの朝以来、半七の身分を大抵察しているらしかった。
「そこで、くどいことは云わねえ、手短かに話を片付けるが、おまえさんは死んだ若い師匠とどうかしていたんだろうね」
 弥三郎の顔色は変った。かれは黙って俯向いて、膝の下の青い葉をむしっていた。
「ねえ、正直に云って貰おうじゃねえか。おまえさんが若い師匠とどうかしていた。ところが、師匠はあんな惨めな死に様をした。丁度その一周忌に大師匠が又こんなことになった。因縁といえば不思議な因縁だが、ただ不思議だとばかり云っちゃいられねえ。若い師匠のかたきを取るために、お前さんが大師匠をどうかしたんじゃねえかと、世間で専ら評判をしている。それが上の耳にもはいっている」
「飛んでもねえこと……。わたくしがどうしてそんな……」と、弥三郎は口唇をふるわせながら慌てて打ち消そうとした。

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